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信時正人の都市学入門(5)環境変化と都市、発想の転換の必要性

  • 2018年08月10日
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画像:信時正人の都市学入門-5 台風12号の進路

またまた大変なことが起こったと言えるのではないでしょうか。

前回(2018年07月11日掲載)のコラムでは「これまで経験したことのない・・」というフレーズを嫌というほど聞いたと言いました。しかし、これほど間をおかずに再度、「これまで経験したことのない・・」、「これまでの経験が生きない事象」、というようなフレーズを聞くことになろうとは思わなかったですね。

7月下旬の台風12号のことです。
通常は太平洋高気圧のへりにそって北上し、その後、偏西風に乗りながら右カーブを描いて日本に到達し、西から東に日本を縦断するという進路が普通ですが、なんとこの台風は東から西へ、という真逆の進路を取りました。
異常なまでの高温の日々を招いていた強力なチベット高気圧と太平洋高気圧の連合軍が東西二つに分かれ、その間隙を縫って台風12号は日本に接近したのですが、その進路が、テレビの天気予報士から“可能性”として聞いていた話のとおりになるとは・・・
その後、更に、四国沖の太平洋側にある寒冷渦(低気圧)の影響もあり、九州沖で円を描いて西の方に向かったわけですが、通常、天気は西から東へ変わっていく、という常識が根本から覆った事象でした。
太陽が西から昇る、みたいなもの?か。

単に台風の進む方向が逆になったというだけではなくて、これによって大雨の降りやすい地域や、風向きの変化、台風一過後の気候変化等、実際に、これまでに経験のないことばかりであったのです。
しかし、この事態は今回が終わりではない。今後も何が起こるかわからない、まさに、これまでに経験のないことだらけの気象が現出してくる可能性が大きいと思います。

前回(2018年07月11日掲載)のコラムでは、もう一度都市の第一層(水、大気、土壌、緑)から見直していかないといけない、また今後は、都市つくりの中でもICT技術を使っていくことも重要だと書きました。これに関しては項を改めることとして、ここでは、もう目の前に、生死にかかる気象災害が迫ってきている中でどうしていけば良いのか、を考えたいと思います。
いかに、この大きな変化に適応していけるのか、都市をどう作り直して、どう運営していけば良いのか、ということです。

私が、横浜市役所で温暖化対策の責任者をやっていた時は、専ら緩和策を追求していました。もう一方の、適応策は、何か現状受け入れの消極策という風に感じていて、ファイトがわかなかったのを覚えています。
その頃、あるセミナーでご一緒に登壇した多治見市の市長さんが、自分の市としては適応策しかないです、とおっしゃっていました。
全国一の高温を記録した同市は、熱中症に市としてどう対応していくのか、救急搬送のシステムやその人員整備、これが自治体としての大問題なんだ、というお話をされていました。

敗北宣言ではないですが、今後は生死がかかってきていることもあり、こういった適応策に、国もそうですが、全国の自治体が本当に力を入れていかなくてはならない事態になってきたのではないか、と思います。
熱中症はもう起こるのが当たり前、テレビでも、警告だけでなく、予防方法も連呼されています。そして、そのような事態が起こった際の自治体の行動をいかに素早く効果的にしていくのか、適応策の先進地域、多治見市あたりに学ばないといけないと思います。
また、生死にかかることとして、経験のない量の大雨に対応することも必要です。

最近、自治体の土木職職員の削減が進んでおり、平成8年をピークに減少し続け、平成27年には全国で139千人、20年前と比較すると2/3になってしまったようです。
小さな自治体では、高い専門性を持った技術職員がほとんどいない、という実情も浮き彫りになってきています。
東北の震災の際には、私のいた横浜市からも大勢の職員が派遣されました。
JRの線路がズタズタになったために、線路の付け替えと共に新しい駅を作る必要があったのですが、それを推進する担当として派遣された者もいました。そういった新しい駅作りに関して駅前の区画整理事業などの経験と技術があり、プロジェクト推進のできる職員が東北の沿岸諸市町には全くいないに等しかったということでした。当該諸自治体ではそれまで、日頃の業務の中ではそんなに大きな土木建築に関わる事業の必要性がなかった、ということですね。

これからは、これまでの必要性のみの世界から飛び出していく発想が必要です。
今後の予期し得ない、経験値が役に立たない災害に対応するには、それに対応できる職員を、余裕を持って配置することが避けられないのではないか、と思います。

政治的にはこれまで、公務員削減を言っていると票につながる、という面もあったのではないでしょうか?
災害だけではなくて、建物や道路などの都市インフラの老朽化も叫ばれています。
徒らに増やすことは戒めないといけないとは思いますが、必要なところには、必要な人材を投入することが躊躇なく進められるべきでしょう。

一時間に50ミリを超える豪雨がこう度々起こってくることに対して、ハードとそれを維持管理する人材、更に、避難に向けた経路の整備と広報戦略、の大幅な見直しが必要になったと思います。
ハードと一口に言っても膨大な費用がかかります。果たして今の公共セクターの懐具合でやっていけるのか甚だ疑問です。

環境変化に合わせた新しい都市のハードつくりとそれを支える人材つくり、そして、広報戦略や避難戦略のようなソフト戦略が必要で、それらを総合化したマネジメントの重要性が更に必要になったと思います。

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信時 正人

株式会社エックス都市研究所理事 和歌山県出身
東京大学都市工学科卒
三菱商事株式会社(情報産業、開発建設、金融)を経て、(財)2005年日本国際博覧会協会(政府出展事業 企画・催事室長:日本館の企画・運営、政府主催催事担当)、東京大学大学院特任教授(UDCK、柏の葉アーバンデザインセンターの立ち上げ)、横浜市入庁後に都市経営局都市経営戦略担当理事、地球温暖化対策事業本部長等を歴任(横浜スマートシティプロジェクト、環境未来都市等推進)。
東京大学まちづくり大学院非常勤講師、横浜国大客員教授等、他に(一社)UDCイニシアチブ理事(UDCの拡大と立ち上げ支援を目的に出口東大教授等と設立)

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