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信時正人の都市学入門(4)都市“計画”の根本から見直す?!

  • 2018年07月11日
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画像:都市構造への認識

 
「これまで経験したことのない大雨が・・・」、「最大級の警戒を・・・」、「命を守る最善の行動を・・・」、こういったフレーズを嫌というほど聞いた数日間でした。

私の住む兵庫県も大雨特別警報などが発令され、避難勧告や避難指示まで出たりして、非常にひっ迫した気象状況を経験しました。一時間に50ミリ~100ミリといった大雨が一日と言わず、数日間降り続くというような事は、確かにこれまで経験をしたことのないレベルだったと思います。
私の自宅前の小さな川までも泥水がうねる様に流れていく感じとなっていて、幸いにも避難勧告地区でなかった私の自宅ですが、紙一重であったようにも思います。

しかし、「これまで経験したことのない・・・」というフレーズが、今後有効かどうかは分かりません。実際に今回経験しているわけですが、今回のような大雨がこれで終わるとは思えないからです。次回起こった時にはどんな表現になるのか?大雨超特別警報とか?!

冗談ではない、異常な気象状態が常態化するのではないか、という気がします。
地球温暖化が既に、ポイント・オブ・ノー・リターン(point of no return)、もう戻れないレベルにまできてしまった、と言えるのかもしれませんが、どうなのでしょうか。

広島県、岡山県、愛媛県、高知県などでは、川が氾濫して街に流れ込み、家の一階部分が水没してしまい、自衛隊に救助されている映像が流れていました。また、裏山が崩れて家が押しつぶされている事例も多々ありました。死傷された方の数も半端ではなく、非常に重苦しい気分にさせられます。地震による被害もさることながら、日本は、こういった超豪雨による被害も考えていかないとなりません。

添付の絵は横浜市が環境未来都市に指定された時に国に出した提案書の中の絵です。横浜市としての都市構造への認識を示し、効果的な施策を実行しつつ未来都市を作っていこうという基本概念です。
三つの層に分かれています。
一番下は、自然のインフラの層です。水、大気、土壌、緑、となっています。
二番目は、人工的なインフラの層です。電力やガスのエネルギーインフラや、上下水道、廃棄物処理システムや、ハードのインフラばかりではなくて、医療・福祉系の社会サービスもここの範疇です。
三番目は、いつも目にするものの群です。産業、コミュニティ、文化芸術等です。

そして、縦に貫くオレンジ色の線は“ICT”を表しています。今後は、この都市のどの分野でもICTが非常に重要な位置を占めていくという事を示しています。逆にICTを考えない都市つくりは、今後はあり得ないのではないか、という事です。AIやIOTは最近本当に良く出てくる言葉ですが、それを如何に活用していくのか、それが必要かつ重要ではないか、という事です。

しかし、それには、(楕円形で示しているのですが)自治体などの持つデータの有効利用のためのオープンデータの姿勢が必要だという事です。
その中で、第一層、すなわち、水、大気、土壌、緑、この辺りは所謂、都市計画の範疇には入っていません。これまでの所謂、都市計画は第三層だけですね。

私が横浜市でやったスマートシティプロジェクトはエネルギーの効率的マネジメントと省エネ、それらに再生可能エネルギーを絡ませて、というプロジェクトでありましたが、これは第二層。世界的に都市計画とエネルギーの世界は全く融合していないという事が世界的大課題となっています。そこの融合を図るIEA EBC Annex63という会議体に自治体の人間として入れていただいていました。

そして、第一層です。最近の災害を見ていると自分の住んでいるところの自然条件に対して情報をほとんど持っていないのではないか、と思えます。
また、水が入ってきやすい土地、山崩れしやすい土地を、そう認識した上で街を作ってきてはいないのではないか、と思われます。
それらを今後はセンサーなどを使って直接的に、タイムリーに認識していくことが、ぜひとも必要ではないかと思うのです。
これには、自治体が持っているデータをオープンにする姿勢が非常に大事になってくるところだと思います。
地層や、水の道など、「ブラタモリ」的な土地解析(?!)をしながら、まちつくりを再度、“根本から”検討し直していく姿勢が本当に求められる時代となってきたのではないかと切に考えるのです。

しっかりとした情報に基づいた施策作り、エビデンスベースト(evidence based)のアーバンプランニング、やアセスメント、都市の第三層だけではなく、更に、第一層、第二層を俯瞰し、関連させた総合的な、まちつくりへのアプローチを実践していかないとダメなのではないか、我々は、それを追求していきたいと思っています。

これまで経験したことのない大雨などの事象に対処できる都市にするためには、これまでの経験や延長線上にはない発想と実践でまちつくりを展開していくことが未来の都市を作っていくことになるのです。

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信時 正人

株式会社エックス都市研究所理事 和歌山県出身
東京大学都市工学科卒
三菱商事株式会社(情報産業、開発建設、金融)を経て、(財)2005年日本国際博覧会協会(政府出展事業 企画・催事室長:日本館の企画・運営、政府主催催事担当)、東京大学大学院特任教授(UDCK、柏の葉アーバンデザインセンターの立ち上げ)、横浜市入庁後に都市経営局都市経営戦略担当理事、地球温暖化対策事業本部長等を歴任(横浜スマートシティプロジェクト、環境未来都市等推進)。
東京大学まちづくり大学院非常勤講師、横浜国大客員教授等、他に(一社)UDCイニシアチブ理事(UDCの拡大と立ち上げ支援を目的に出口東大教授等と設立)

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