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網岡健司「地域進化論」を考える 〜持続可能なまちづくりのビジョン、ミッション、パッション〜 第四話

  • 2018年12月10日
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前回に引き続いて、人間社会の進化に関するビジョンについて考えます。

ビジョン 〜「人間社会の進化」の来し方行く末を考える〜

2つ目の進化論としてご紹介するのは、米国の未来学者アルビン・トフラー氏(*2)が提唱した「第三の波」です。トフラー氏は同名の著書の中で以下のように論じています。

「人類はこれまで大変革(パラダイム・シフト)の波を二度経験してきた。第一の波は農業革命(狩猟社会から農耕社会への変革)、第二の波は産業革命(農耕社会から工業社会での変革)とした上で、現在、情報革命による脱工業社会への変革の波、すなわち第三の波が押し寄せている。」(下図参照)
網岡4 第三の波

今、人類3番目の変革期を迎えているという時代認識やサイクルの捉え方は前述の広井氏の指摘とも符号しており、これだけを読むと「なんだ、当たり前の話ではないか」と思われるかも知れませんが、筆者が感服しているのは、この「第三の波」を世に問うたのが1980年、AIはもちろんインターネット、パソコンやスマートフォンなどもその姿が明らかではなかった時代にもかかわらず既に情報革命等の社会に与えるインパクトを予測されている先見性(実際、本書は同氏の別著書「未来の衝撃」と合わせてこの時代の最も的確な未来社会予測の書だったと評価されているようです)に加えて、技術的あるいは経済的な視点に偏りがちな産業革命を社会システム全体の変容と捉えようとする大局観です。

例えば、トフラー氏は、下表のように「第一の波」から「第二の波」への社会システムの変容をおおまかに技術体系、社会体系に分けて考察されています。
網岡コラム4-2

さらに、「第二の波」の時代における社会システム変容における大きな潮流を以下のようにまとめた上で、

1. 規格化:工業製品の大量生産、流通、消費のための規格化
2. 専門化:プロセスの高度化に伴う分業化の徹底
3. 同時化:産業が要求した時間の画一主義

「第三の波」の時代では、これらが以下のように根本的に変容していく(あるいは変容が求められる)と述べています。
既に現代においても、IT分野で起こっている現象、事例にあてはめて考えてみると、確かにこの方向に社会変容は進んでいるな、と実感されるのではないかと思います。

1. 規格化⇒多様化 :多様なニーズへの要求
2. 専門化⇒多能化 :一人でいくつもの役割を果たす
3. 同時化⇒非同期化:IT、ネットワーク等による自由化

トフラー氏は、これ以外にも、政治(民主主義の行方)や教育あるいは働き方の問題など様々な分野について鋭い洞察を展開していますが、その中でも中心的な概念として、新たな時代を担うべき主役となる「プロシューマー」(pro-sumer)というキーワード(造語)を提示しました。

産業革命の進展により大量生産・大量消費の社会システムへの最適化が進む中で分断されてしまった生産者(producer)と消費者(consumer)が、「第三の波」の時代では再び融和され、生産消費者=プロシューマー(pro-sumer)として台頭すると予見したのです。

筆者は、このプロシューマーという概念が、これからの持続可能なまちづくりを進める上でも、極めて本質的で重要なキーワードであると考え、好んで使わせていただいています。
すなわち、現在の我々市民のまちづくりへの関わり方は(言葉を選ばずに言うと)、「納税・投票で義務は果たしたので、あとは行政や議員の皆さんにお任せしますよ。何か我慢出来ないことが起こった場合には文句を言うから、その時はよろしく。でも私たちの責任ではないからね。」といったスタンスが一般的ではないでしょうか?

いわば、まちづくりにおいても、生産者と消費者が分断、分離されてきたのが現状と言わねばなりません。
しかしながら、「自治」という言葉もあるように、まちづくりとは本来、我々が自らの責任と権限の下で行うべき活動であったはずで、専門性や効率性等の観点から行政機関や議会等のセクターをつくり、そこに業務を委任してきたに過ぎません。

もはや右肩上がりの経済成長も期待できず、人口減少社会をどう乗り切るかなど数々の難題を抱える我が国、そして持続可能な社会の実現にその命運がかかる世界、全ての人々が手を携えてその課題解決に向かって活動していくべき時代を迎えるにあたり、誰も消費者(あるいは傍観者)だけの存在であり続けることはできないでしょう。1億2千万人の日本国民、70億人の地球市民の全てがプロシューマーたらんことが強く求められているのです。

さらには、地域や都市も、生産と消費のバランスの取れたプロシューミングなまち、持続可能なまちへの進化を目指していくべきである。
それがトフラー氏のメッセージではないか、と思うのです。

最後にトフラー氏の言葉を、もう一つ贈ります。

「変化は人生にとって必要不可欠なだけではない。変化こそが人生なのだ。」

さて、「地域の進化」に関わるお二方の「論」をご紹介してきました。
次回からは北九州での持続可能なまちづくりのご紹介など具体論に進むつもりでしたが、その前にもう一つ、どうしてもご紹介したい大事な話題を思い出しました。北九州、福岡から発信している「論」です。どうぞ、お楽しみに。

【注釈】
*2:アルビン・トフラー ( Alvin Toffler / 1928-2016)
アメリカ・ニューヨーク州出身の未来学者、評論家、作家。「デジタル革命」「組織革命」「コミュニケーション革命」「技術的特異点」といった情報化社会実現の予言に関した業績で知られる。Russell Sage Foundationの客員学者、コーネル大学の客員教授、アメリカ国防大学教授、国際連合女性開発基金米国委員会の共同議長などを歴任。フィナンシャル・タイムズ紙で「世界で最も有名な未来学者」と評されたほか、最も影響力のあるビジネスリーダー(アクセンチュア)としてビル・ゲイツやピーター・ドラッカーに次いでトフラーの名が挙げられた。

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網岡 健司

株式会社エックス都市研究所参与
名古屋大学大学院工学部原子核工学科修了
新日本製鐵株式会社(現 日本製鉄株式会社)に入社し、八幡製鐵所配属。同社のスペースワールド班に参加、以降一貫して北九州市八幡東田地区の都市再開発事業などの地域開発に携わる。
北九州市特区専門官、参与ならびに北九州市立大学院特任教授等を歴任(非常勤)、産官学一体の立場から持続可能なまちづくり推進の一環として社会変革を促す地域プロジェクトを企画・プロデュース。「情報の港」北九州e-PORT構想やエネルギー革命をもたらす東田コジェネ事業、「環境パスポート事業」、スマートコミュニティ実証事業、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録など数々のプロジェクトを手掛けている。
他にNPO法人里山を考える会理事、九州国際大学大学院特任教授「地域政策論」担当、八幡東田まちづくり連絡会会長などを務める。

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